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引退馬協会から

ホーストラスト訪問記/移動後のF放牧地を訪ねました

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F放牧地 7月30日撮影

J放牧地からF放牧地へ


150頭の引退馬が生活するホーストラストの11ヵ所の放牧地は、ほとんどが鹿児島県湧水町にあり、霧島高原の豊かな自然の中にあります。J放牧地で生活していた19頭は(元の群れ20頭のうちの1頭、被災馬フォスターホースのハーモニィチトセチャンは痩せてきたこともあり体調管理のため、6月にL放牧地へ移動済み)、7月9日にF放牧地へ移動しました。

F放牧地の広さはJ放牧地とほぼ同じ(約11万㎡)。山林を挟んでJ放牧地に隣接しています。群れの移動はスタッフ総出で1頭ずつ馬を引き、おとなしい馬は一緒に歩かせて一斉に行われました。群れのボス、フォスターホースのハギノハイブリッドを先頭に、19頭が新しい放牧地へ。全頭無事に移動を終えました。移動時のようすを記録した動画が公開されています。

YouTube ホーストラストch【ホーストラスト】新放牧地完成!【引退馬】
https://www.youtube.com/watch?v=hVo2pVjVKUc

このF放牧地はJ放牧地の代替地として提供されたものです。元は牧草地として機能していた土地ですが、ササや雑草で覆い尽くされており、そのままでは放牧には使えない状態でした。動画ではこの放牧地は、ほぼ手つかずの原野、馬が放せないほど丈の高い草に覆われていた場所と紹介されています。実際の移動の準備に充てられるのは約1週間。ごく限られた時間の中、スタッフの皆さまで整地作業は進められ、明け渡し期日前日の9日に移動が完了しました。


移動から3週間後のF放牧地へ

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水を飲むハギノハイブリッド(右)。左は仲良しのリッカギムレットー 7月29日撮影

7月29日・30日、沼田代表理事と加藤専務理事が鹿児島へ。移動から3週間が経過したF放牧地に伺いました。

F放牧地は元のJ放牧地に隣接していますが、ハーモニィフラがいるE放牧地とも近い位置にあります。林の中の通路の先に設置されたゲートがあり、そこから中へ。入って右手に水飲み場があり、29日夕方に訪れたときは馬たちがちょうど水を飲みに来ていました。

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次々と水を飲む馬たち。右奥の緑の無口がドリームスイーブル
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水飲みを待つ馬たち。左奥、少し遠くにいる黒鹿毛がサポートホースのチェリーサウンド
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木陰に設置された水飲み場


ハギノハイブリッドを先頭に、順に水を飲む馬たち。水道は今回新しく引いたもので、2つの大きな水桶を使って飲み水を供給しています。フォスターホースのドリームスイーブル、サポートホースのチェリーサウンド(桜音会)も近くで仲良しの馬と一緒に水飲みの順番を待っていました。19頭はしっかりまとまって行動しているようです。そのようすを間近にして、あらためて安堵しました。


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F放牧地のゲート
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F放牧地の内側からゲートを見たところ。左に水飲み場
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刈り取った草のロールが牧柵沿いにたくさん置かれていました

この放牧地は一帯が斜面となっています。整地は地面いっぱいに生えていた草(ヨシやササ、食用にならない雑草など)を刈り、牧草の種を蒔き、牧柵を立てることから始められました。馬を放つ場所としては、ゼロからのスタートといえるでしょう。

30日、スタッフリーダーの大野さんにあらためて現地を案内していただきました。
刈り取られた草はロールにして放牧地の隅にたくさん並べられていました。この乾草は食用には向かず、寝藁として使用します。しかし量が多いので、近隣の農家さんにも使っていただけるようにしているそうです。

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斜面を下って進むと、くの字になった地形の奥に馬たちの姿が
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木陰に沿うように馬たちが並んでいました
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群れの中で一定の距離を取り、静かに佇む馬たち


放牧地の地面は緑色でなく、冬の枯れ地のような黄褐色でした。辺り一面が、青々と草が茂るほかの放牧地とは明らかに異なる、枯れた草の色をしていました。
ホーストラストさんでは馬ごとに与えられる飼料のほかに投げ草を行っていますが、まだ青草が少ないこの放牧地では、より多くの投げ草が必要と思われます。ここで与えられている乾草は、朝はバミューダヘイ、夕方はオーツヘイ(いずれもイネ科)。種を含むバミューダヘイは、馬糞から大地に蒔かれ、草地を育むことにつながるそうです。耐暑性があるバミューダヘイは真夏のこの時期でも育つ種です。

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整地後、地面にまばらに生える牧草。これから新たに牧草を育てていきます


前日夕方、ゲート近くの水飲み場で会うことができた馬たちは、この日はゲートから広がる斜面を下り、くの字になった地形を曲がった一番奥のエリアにいました。杉や雑木が茂る林を背に、19頭が佇んでいました。この林の向こうがJ放牧地です。放牧地の移動は、この林側にあるゲートから行われました。

馬たちは、それぞれ気の合う仲間と一緒に数頭ずつ体を寄せ合い、そのグループが一定の距離を取りながら、ひとつの群れを成していました。林に沿って牧柵が立てられているため、馬たちは林の中には入ることができません。日中の暑い時間帯、馬たちは互いの尻尾で虫を払ったり、草を食べたりしていましたが、あまり動かず、その場でじっと過ごしていました。

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ハギノハイブリッドと沼田代表
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ドリームスイーブル(左)と仲良しのクレスコマリン
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チェリーサウンド(手前)

数年かけて整えられる馬たちの生活環境


F放牧地の手前半分は長い間放置されていた土地だったため、クマザサと堅いヨシに覆われていました。刈った後も、先が鋭くなった株が草地に残っており、歩いていて長靴を突き破らないか心配になったほどでした。これは馬の蹄にとって、よいとはいえない環境です。斜面下の採草地だったエリアはそのような心配はなさそうですが、ここも草をすべて刈り、牧草を育てることからのスタートとなっています。

かつて、J放牧地もこのように草を刈ることから始め、青々と草が茂る豊かな牧草地になるまでに3、4年かかったとのこと。このF放牧地も同様に整うまで数年かかると考えられます。また、現状では、F放牧地には日よけ雨よけになるシェルターがありません。J放牧地では、日中は涼しい林の中で過ごしていた馬たちも、ここでは太陽が高くなる時間帯は日陰が少なく、力関係で弱い馬たちはなかなか涼むことができないようでした。

牧草、水飲み場、地形、日陰、すべてが馬たちにとって大きな変化です。生活環境が変化すると、健康な馬でもストレスを感じます。この放牧地には元気で強い馬たちが暮らしていますが、移動による影響は決して少なくはないといえるでしょう。これからも馬たちがすこやかに、おだやかに生活することができるよう願うばかりです。

まだまだ整地が必要な部分が残っており、スタッフの皆さまも大変な作業が続くと思われます。鹿児島の豊かな自然の中にあるホーストラストは、引退馬たちの砦として本当に必要な場所です。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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この地もやがて豊かな放牧地に…

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